水しぶきがほほにピュ

父親と話した。
「結婚式終わって落ち着いたのか?」
――まあまあ。わたしは今退屈してる。
「ははは」
――ねー。お父さんって結婚して退屈してたの?
「うーん。そういうこともあったな」
――いまね私退屈なんだよ。
「あー」
――お父さんは退屈だと思ったときどうしたの?
「別のことを考えたな。子供産むでもいいけど、趣味をつくるとかさ」
――浮気したりした?
「そういうことはしない」
――ウソばっか言ってる。
「いや、そういうことはしない」
――知ってるんだよ、浮気してたでしょ! まあいいや。
「…」
――でさ、結婚の話だけど。お父さん、彼女と結婚していいよ。
「あー」
――最近どうでもいいんだあ。好きにしていいよって思う!
「ああ、ありがとう」
――でもさー。ゆっとくけど、結婚してもすぐたいくつになるよ。
「あっははは」


小学校のころの、ある日、
朝普通に仕事に行った父は、そのまま
私たちの前から消えた。
大人になったわたしは探しに行ったのだ。
意外なことに父は隣の町にいた。
近くに住んでいたことがわたしはやりきれなかった。
隣の町に住んでいても、一生すれ違わない
ままの人もいるのだろう。
私にとって父は十年近く、
その「すれ違わない」人だった。

父は事業を起こし、成功していた。
母はそのことを知っていたが私に黙っていた。
母はすでにこの世にはいない。


父が私の理想のボーイフレンドだ、と人前で言うのは、
ちょっと、気持ち悪いファザコンなのかもしれない。
でもそうだった、そうだな、と思った。最近気づいた。

そのときにわたしは、私と同い年の父の恋人のことを許した。

そんな昼下がりの会話。

架空の話、と言うことにしておいてください。